「工期に関する基準」と改正建設業法の関係とは?

建設業に特化した東京(新宿区)の行政書士事務所オータ事務所 でコンサルタントの一員として、クライアントから寄せられる建設業法や建設業許可に関する相談対応を行っている清水です。

国土交通省の諮問機関である中央建設業審議会は2020年8月3日(月)、適正な工期による請負契約の締結を促し、働き方改革を促進するため工期に関する基準を作成し、その実施を勧告しました。

改正建設業法では、第19条の5で建設工事の注文者はその注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならないとしています。この規定に違反して著しく短い工期による請負契約を締結した場合は、発注者に対しては勧告(法第19条の6)がなされ、また、注文者が建設業者である場合には許可行政庁による勧告(法第41条)や指示(法第28条)が行われます。(ただし、発注者への勧告の対象となる建設工事はその請負代金の額が500万円(建築一式は1,500万円)以上のものとなります。)加えて、入契法第11条第2項では、公共工事においては、建設工事の受注者が下請負人と著しく短い工期で下請契約を締結していると疑われる場合は、当該工事の発注者は当該受注者の許可行政庁にその旨を通知しなければならないこととされています。したがって、今般中央建設業審議会が作成した工期基準を理解することは建設業者にとって非常に重要です。先ずは工期に関する基準の概要を押さえましょう。

工期に関する基準の趣旨
適正な工期の設定や見積りにあたり発注者及び受注者(下請負人を含む)が考慮すべき事項の集合体であり、建設工事において適正な工期を確保するための基準としています。当初契約や工期の変更に伴う契約変更に際しては、基準を用いて各主体間で公平公正に最適な工期が設定される必要があります。その結果として、長時間労働の是正等の働き方改革が進むことで建設業が担い手の安心して活躍できる魅力ある産業となり、他方、発注者としても自身の事業のパートナーが持続可能となることで質の高い建設サービスを享受することができ、相互にとって有益な関係を構築するための基準でもあるとしています。尚、著しく短い工期の疑義がある場合には、基準を踏まえるとともに、過去の同種類似工事の実績との比較や建設業者が行った工期の見積りの内容の精査などを行い、許可行政庁が工事ごとに個別に判断することとなります。

工期全般にわたって考慮すべき事項
(1)自然要因
降雨日・降雪日、河川の出水期における作業制限 等
(2)休日・法定外労働時間
改正労働基準法に基づく法定外労働時間
建設業の担い手一人ひとりが週休2日(4週8休)を確保
(3)イベント
年末年始、夏季休暇、GW、農業用水塔の落水期間 等
(4)制約条件
鉄道近接・航空制限などの立地に係る制約 等
(5)契約方式
設計段階における受注者(建設業者)の工期設定への関与、分離発注 等
(6)関係者との調整
工事の前に実施する計画の説明会 等
(7)行政への申請
新技術や特許公報を指定する場合、その許可がおりるまでに要する時間 等
(8)労働・安全衛生
労働安全衛生法等の関係法令の遵守、安全確保のための十分な工期の設定 等
(9)工期変更
当初契約時の工期の施工が困難な場合、工期の延長等を含め、適切に契約条件の
変更等を受発注者間で協議・合意
(10)その他
施工時期や施工時間、施工法等の制限 等

工程別に考慮すべき事項
(1)準備
(ⅰ)資機材調達・人材確保(ⅱ)資機材の管理や周辺設備(ⅲ)その他
(2)施工
(ⅰ)基礎工事(ⅱ)土工事(ⅲ)躯体工事(ⅳ)シールド工事(ⅴ)設備工事(ⅵ)機器製作期間・搬入時期
(ⅶ)仕上工事(ⅷ)前面及び周辺道路状況の影響(ⅸ)その他
(3)後片付け
(ⅰ)完了検査(ⅱ)引き渡し前の後片付け、清掃等の後片付け期間(ⅲ)原型復旧条件

分野別に考慮すべき事項
(1)住宅・不動産分野
(2)鉄道分野
(3)電力分野
(4)ガス分野

上記に示した事項が考慮されず、著しく短い工期と疑われる場合は発注者、受注者、元請負人及び下請負人、いずれの者も建設業法違反通報窓口である駆け込みホットラインへの通報が可能となっています。

さらに、工期基準では新型コロナウイルス感染症対策を踏まえた工期等の設定についても触れており、新型コロナ感染症の拡大防止措置等の取組を実践するに当たっては、入室制限に伴う作業効率の低下や、作業員の減少に伴う工期の延長、作業場や事務所の拡張・移転、消毒液の購入、パーテーションの設置等に伴う経費増等が見込まれることから、あらかじめ請負代金の額に必要な経費を盛り込むほか、受発注者間及び元下間において協議を行った上で、必要に応じて適切な変更契約を締結することが必要であるとしています。特に、「三つの密」回避に向けた取組の中で、前工程で工程 遅延が発生し、適正な工期を確保できなくなった場合は、元下間で協議・合意の上、必要に応じて工期の延長を実施する必要があります。また、サプライチェーンの分断等による資機材の納入遅れ、感染者又は感染疑い者の発生等による現場の閉鎖、現場必要人員の不足等により工期の遅れが生じた場合や、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言下において、特定警戒都道府県より労務調達を要する場合は、当該労務者の健康状態にかかる経過観察期間を要するため、受発注者間及び元下間において協議を行った上で、必要に応じて適切な工期延長等の対応をすることが必要となります。第3波が予想される秋冬にはこれらもふまえて適正な工期による契約締結が建設業者には求められます。

オータ事務所は建設業許可に特化した行政書士事務所として多くの申請件数から培ったノウハウを活かして、建設企業の建設業法令遵守を支援しております。建設業法令遵守サポートサービスにご契約いただいく会員企業から寄せられるご質問等には、ご担当者の方が上司や経営陣に対してより説得力のある説明ができるよう、根拠条文を必ずご紹介するようにしております。いきなり契約には躊躇してしまうという企業には、毎月建設業法のテーマごとに相談会もリーズナブルな価格で実施しておりますので、こちらもご利用をご検討ください。ご来社いただくことなく、テレビ会議システムを活用してご相談に対応することも可能です。

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シニアコンサルタント 清水 茜作

行政書士有資格者
2012年 オータ事務所株式会社 入社
入社よりオータ事務所営業部で建設業許可の各種申請、経営事項審査などに携わり、17年は年間約450社の手続きを担当する。培ったノウハウをもとに18年より同社の広報担当としても、建設業者に向けた最新情報の発信を行っている。また、グループの建設産業活性化センターが主催するセミナーでは、コンテンツ制作や講演を通して建設業者のコンプライアンス・経営力向上を積極的に働きかけている。

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