建設キャリアアップシステムのキホンを解説します!

私のもとにはクライアントから建設業法に限らず建設産業に関する質問が多く寄せられるのですが、中でも最近は建設キャリアアップシステム(CCUS)に関する質問が目立ちます。例えば、「建設キャリアアップシステムへの登録は建設業者およびその従業員にとって法的義務なのでしょうか?」といった根本的な質問をいただくこともあり、まだまだその制度が建設業者に広く周知されているとは言い難い状況です。こうした建設業者の方のために、先ずは建設キャリアアップシステムの基本をお伝えいたします。

 
 

建設キャリアアップシステムはなぜ必要か?
近年の建設産業が抱える最重要課題は間違いなく担い手不足です。技術者についても不足の声は多く聞かれますが、より深刻な問題を抱えるのは技能者の不足です。現在、建設技能者全体に占める60歳以上の割合は約25%、対して若年層の30歳未満は約11%となっています。10年後には約1/4の技能者が引退することが見込まれ、その人数は約80万人となります。若年層の入職が増加しない限り建設業者の経営はさることながら、建設産業の存続までもが危ぶまれます。また建設業においても2024年4月1日より罰則付時間外労働規制の適用を受けることとなり、これにともなう担い手不足も懸念されます。

しかしながら、別の統計では建設技能者の賃金カーブは製造業生産労働者のピークと比較して若い年齢でそのピークに到達しています。したがって、その現場管理能力や後進の指導等のスキルが適切に評価されず、若い世代にキャリアパスを示すことができていない状況です。

こうした現状を受けて、技能者の資格、現場の就業履歴を業界統一のシステムで登録・蓄積、資格や経験等によって能力をレベル判定し、これに応じた適切な給与が支払われる環境を整備することで、若い世代にキャリアパスを示すことを目指しています。官民連携の取組みとして、2019年4月1日より本格運用が開始されています。

建設キャリアアップシステムは義務なのか?
冒頭の質問、「建設キャリアアップシステムへの登録は建設業者およびその従業員にとって法的義務なのでしょうか?」については建設業法で義務とされるものではありませんが、その目的が技能者の処遇改善であることからキャリアアップシステムに登録していない事業者は、人材確保においてアドバンテージを欠くことになると思われます。また、建設キャリアアップシステムに登録した技能者が就業履歴を残すためには元請事業者もシステムに登録していて、現場登録および施工体制の登録を行う必要があります。さらに、例えば二次下請業者の技能者が就業履歴を残すためには、その二次下請業者に建設工事を注文した一次下請業者もシステム登録の上で施工体制の登録を行う必要があり、建設キャリアアップシステムそのものが建設業界全体で取り組むべき仕組みとなっています。

技能者の処遇改善はどのように行われるか?
ポイントは建設キャリアアップシステムに蓄積される技能者の就業履歴や資格によって、4段階の客観的な能力判定を行うことにあります。レベル4なら年収○○○万円といったような労働市場環境が形成されることを目指しています。能力評価基準は登録基幹技能者制度があるすべての職種(現在は35職種)で策定が行われる予定ですが、2019年10月7日に鉄筋・型枠・機械土工の3職種についてそれぞれの専門工事業団体から申請が行われて国土交通大臣による認定がなされました。

競争入札参加資格や経営事項審査におけるインセンティブ
建設キャリアアップシステムの本格運用を受けて、公共発注機関も登録事業者にインセンティブを与える動きが出ています。

山梨県:事業者登録を総合評価で2点加点(一定規模の土木一式工事で導入)
長野県:現場運用する事業者の総合評価での評価、競争入札参加資格審査で登録事業者に対する加点を検討
福岡県:次期競争入札参加資格審査で、事業者登録を地域貢献活動として加点

経営事項審査においても、2019年9月13日(金)中央建設業審議会の総会にて次の改正案が了承されています。
・技術力(Z)のうち技術職員数(Z1)において、能力評価基準レベル4の者に3点、レベル3の者に2点の評価
・社会性評価(W)でシステム登録技能者のうちレベル2以上にアップした技能者の割合に応じて最大10点評価

登録事業者にとってのメリットは?
技能者の処遇改善以外に登録事業者にも様々なメリットが見込まれています。例えば、システムに登録された技能者の社会保険加入状況によって現場における作業員の社会保険加入状況が見える化されます。書類作成では、施工体制台帳や作業員名簿の自動作成が可能になります。今後の活用として検討されている専門工事企業の施工能力の見える化を通して、良い職人を育て、雇用する施工能力の高い専門工事企業が適正に評価される環境も形成されることが見込まれます。また、民間システムとのAPI連携によって勤務時間管理や給与計算等の活用ができるシステムとなっています。

ここでの趣旨は、建設キャリアアップシステムについてあまりご存知ない方に基本をお伝えすることでしたのでここまでとさせていただきます。本格運用を受けて行政も早速インセンティブを与える動きを見せていますので、特に公共工事を受注する建設業者は今後の動向についてもしっかりアンテナを張る必要があります。引き続きこちらのコラムや、グループの一般社団法人建設産業活性化センターが開催する建設業コンプライアンスセミナーにて最新情報をお届けしてまいります。

 

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